わんちゃんが熱中症にかかったときの対処

犬の病気 2016年5月31日 

「犬は汗をかきにくく体温調節が苦手。人間以上に暑さがしんどい」と言われています。
この時期、高温の車内に乗せたり、つないでいた場所が、知らない間に日向になっていたりと
犬の熱中症の危険性が増える時期です。
熱中症にかかった犬の、獣医さんの処置方法がとっても参考になりましたので紹介します。

 

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ある暑い夏の日の午後、病院に、
ぐったりした犬を抱っこした飼い主さんが駆け込んできました。
飼い主さんは血相を変えて、悲壮な表情をしています。

何事かと思い、尋ねてみると、
「公園に行って、木につないでおいたところ、
数時間経って行ってみると、横たわっていた。」
とのことでした。

まだ意識はあるようですが、かなりぐったりした様子です。
急いで熱を測ってみると、42℃を超える高熱になっていました。

「どうやら熱中症になってしまったようです。
急いで、熱を下げて、点滴をしなければいけません。」

そう説明すると、飼い主さんは、
急いで治療をしてあげて下さいとの事でした。

つないだときは日陰だったのですが、時間がたって、
日向になってしまったのを気づかなかったという事で、
とても悔やんでいる様子でした。

なってしまったものは、今更責めてもどうしようもありません。
犬を助けてあげないと、飼い主さんも気の毒なばかりです。
何とかがんばって回復させてあげたいところです。

まずは血液検査をして、電解質、肝臓、腎臓あたりの項目を計ります。
点滴・入院をすることはもう確定ですので、採血が済んだら、
すぐに留置針を入れ、点滴の準備をします。

熱中症の時は、まず体温を下げてあげる事が、何よりも大切です。
高体温が続くことにより、体にダメージが与えられ続けてしまいます。
まず、これ以上のダメージが加えられない様な状態にしてあげなければいけません。

それと同時に、血圧をあげるために点滴をしてあげなければいけません。
高体温になると、末梢血管は拡張し、低血圧状態になります。
また、体が脱水状態になっている事も予想されます。

それによって体の血液循環は悪くなってしまいます。
循環血液量を回復させるためには、急いで点滴をどかどかしないといけません。

そのまま犬舍に放り込むと、部屋の冷房を思い切り下げ、
体に霧吹きで水をかけて、扇風機の風を体に当てました。
それとともに、氷のうを頸動脈と足の付け根に当て、
血液を通じて、体温を下げるようにします。

よく、熱が高ければ水風呂に入れればいいんじゃないかと思いがちですが、
あまり冷たすぎる温度にさらすのは逆効果です。
なぜなら、皮膚があまりに冷たい温度を感じると、
皮膚の毛細血管が収縮してしまい、
熱が体から放散されなくなってしまいます。

むしろ、水に浸しておいて、風を当て、
気化熱で熱を奪うのが、もっとも効率的とされています。

そして、動脈に氷水を当て、血流を冷やす処置も加えれば、
さらに効果的です。
動脈血を冷やせば、冷やされた血液は、
速やかに全身に流れて行き、体温を下げる事が出来るからです。

処置を始めてしばらくすると、血液検査の結果が出ました。
遠心分離された血液の上澄みを見ると、
かなりオレンジ色になっているようです。

どうやら、高熱にさらされた筋肉が、
「横紋筋融解」という状態になってしまっているようです。
オレンジ色になっているのは、ミオグロビンという、
筋肉内に含まれる色素が血液中に流れ出て来ているからです。
これは、よく激しいスポーツをして、
「血のオシッコが出た」と表現される時の尿と同じものです。

高熱になると、組織の代謝が激しくなり、酸素要求量が上昇します。
ところが、必要となる酸素量に、供給量が追いつかなくなると、
組織が酸欠になり、細胞が死んでしまう事になります。
すると、筋肉の組織がダメージを受けてしまいます。

酸欠でダメージを受けるのは、筋肉組織だけではなく、
全身の組織が同じくダメージを受けて行きます。
脳までダメージを受けてしまう状態になると、
そのまま命を落としてしまいます。

熱中症によるダメージは、どの程度高熱にさらされたか、
ということに大きく左右されます。

その他、肝臓や腎臓の数値も、のきなみ中程度に上昇していました。
明日になって、もう一度血液検査をしてみなければいけませんが、
今はまず、熱を下げ、点滴をしてあげるしかありません。

飼い主さんに、結果を告げ、そのあと、
「かなりの高温にさらされたようで、体のダメージも大きいようです。
まだ、予後について判定できる状態ではありませんが、
まず出来る限りの治療をしてあげましょう。
ただ、ダメージによっては、命を落とす可能性もありますので、
その点だけご了承ください。」
と説明しておきました。

危ない時に危ない事を告げておかなければ、
トラブルになるもとです。
起こりえる可能性については、前もって説明しておかなければいけません。
実際問題、熱中症というのは、ダメージ次第で命を落とす可能性のある、
恐ろしい病気です。
今の状態を見る限り、とても、「大丈夫です。」と言うことはできません。

飼い主さんは、今にも泣き出しそうな表情でしたが、
「分かりました。
出来る限りの事をしてやってください。」
とおっしゃいました。

飼い主さんも、自分の不注意を十分理解していて、
とても後悔しているだけに、気の毒ではあるのですが、
こちらも、「出来る限りの事をします」という以上の事は言えません。

懸命の治療をしますが、熱中症の時は、体が受けているダメージが、
一番の予後を左右する要因です。
今は、出来る限りの治療してあげて、体が回復して来てくれるのを祈るばかりです。

犬はまだ犬舍の中で横たわってハーハー言っている状態です。
体温をもう一度測ってみると、40.5℃になっていました。
まだ高いですが、先ほどよりは下がって来ているようです。

少しクーラーの設定温度を上げ、もう一度霧吹きで体を湿らせておきました。

熱中症の治療で気をつけないといけないのは、
「がんがん体温を下げれば下げるほどいい」
というわけでもないということです。
体温が39℃台に下がって来たら、今度は下がり過ぎに注意しなければいけません。

体が弱っている場合、体温調節の能力も下がっているので、
下げすぎたら、今度は低体温になってしまいます。

それからもうしばらく扇風機を当てていると、数時間後には、
ようやく38℃台に下がって来てくれました。
もうここまで来たら、下げるのは中止です。
まだ横たわっていますが、点滴を続け、
明日、また元気になってくれるのを期待です。

そして、次の日、様子を見てみると、
伏せの体制で寝そべっていました。
まだぼーっとしていますが、昨日よりは少し楽そうです。

犬舍から出し、外に連れて行ってオシッコをさせると、
濃いオレンジ色のオシッコをしました。
ミオグロビン血症に続いて、ミオグロビン尿の状態になっています。
ミオグロビンが尿に出ることは、腎臓に対しても悪影響を及ぼしますので、
悪いものは体外に排出されるよう、点滴で補助してあげなければいけません。

食餌を少し目の前に差し出すも、やはりまだ、食欲は無いようです。
昨日まで、げろげろ吐いていましたので、まだ食餌は無理そうです。

血液検査をしてみると、やはりまだ血漿は濃いオレンジでした。
肝臓の数値を再確認してみると、>1000で振り切っている値です。
かなりの高温にさらされたようですので、
全身が大きなダメージにさらされたようです。

飼い主さんに電話をしてみると、電話をしたとたん、まず、
「い、生きてますか?」
と聞かれました。
朝一番の電話を、緊張しながら待ってらっしゃったようです。
「はい」と答えると、とりあえずはほっとした様子でした。

「昨日よりは楽そうです。
ただ、肝臓の数値は振り切っていて、
やはりダメージはかなり大きいようです。
食欲もまだない状態ですので、
しばらく点滴は続けなければいけなさそうです。
食欲が出て来て、肝臓の数値が下がって来たらというところですね。」

いつ頃から回復してくるかという事は、
見通しがつかないだけに辛いところです。
体温の調節はうまく出来ているようですので、
あとは安静に保ち、点滴をしながら、
ダメージから回復して来てくれるように手助けをしてあげるだけです。

そして3日目、まだ血液の数値も振り切っていて、
血漿もオシッコもオレンジ色ですが、少し食欲が出て来ました。
顔色も少し良さそうです。
これならいけそうか・・。

飼い主さんに、状況を連絡です。
急変する可能性が否定できないだけに、あまり喜ばせすぎることもできません。
「良くなって来てますので、なんとかこのまま上向きになってくれるよう、
期待したいところです。」

僕は、決して説明の時に、「大丈夫です」とは言いません。
大丈夫かどうかは、まだ実際分かりません。
したがって、嘘にならない範囲で状況を説明します。
説明をする時は、嘘を言わないように、あとでトラブルにならないように、
が基本です。

そして、定期的に血液検査をしつつ、点滴を続け、
入院して一週間目頃、
ようやく肝臓の数値が下がって来てくれました。
血漿と尿も、ようやくずいぶん薄い色になって来ました。

3日ほど前から、ようやく食欲も落ち着いて来ましたので、
一度仮退院とし、しばらく皮下注射に通ってもらう事にしました。
電話してみると、飼い主さんは大喜びでした。

「良かった!もう帰れるんですか。
もう大丈夫なんですか?」

「数値も下がり、食欲も落ち着いて来ましたので、
ヤマ場は過ぎたとは思います。
ただ、体が受けたダメージは大きく、
今はまだそのダメージから回復しつつある時期ですので、
油断はせず、家で安静を保ちつつ、
しばらく注射に通って来てもらった方がいいと思います。」

そして、飼い主さんが迎えにやって来ました。
犬は飼い主さんにうれしそうに飛びつき、しっぽをフリフリしています。

「何か思ったより元気そうですね。」

「犬は、うれしいと無理をしてしまいがちです。
あまり無理させないで下さいね。」

それから、しばらく毎日注射に通って来てもらい、
再度血液検査をした時には、
正常値に戻って来てくれていました。

来院時はかなりぐったりしていましたが、何とか後遺症状もなく、
無事に回復して来てくれました。

ただ、ダメージが回復不能なまでであった時には、
治療の甲斐なく、そのまま命を落としてしまう事もありえます。
これから夏になり、暑くなってくると、
熱中症というのは、特に注意しなくてはならない病気のひとつです。

注意しておけば避けられる病気ですので、
飼い主の皆さんには、これからの時期、注意していただきたいと願います。
不注意で大切な動物が命を落としてしまったとしたら、
悔やんでも悔やみきれませんから。

『引用:どうぶつ病院診療日記、http://blogs.yahoo.co.jp/ponpoko6691535』